2009/8/26発売

  1. Ina Rub-A-Dub Intro featuring Joe Lick Shot
  2. Champion Bubbler
  3. Soldier Fe De Earth featuring Sugar Minott
  4. Talkin’ About Love featuring Al Campbell
  5. Melody Style ~Interlude~ Bad Nahki, Ruff Neck Nahki Come Again, Mr.Chin, Translation
  6. Reason
  7. Don’t Let Her Take You A Way From Me featuring Fiona , Flourgon
  8. Monday Through Saturday
  9. Pot Pon De Fire
  10. Where Is The Music? (Remix)
  11. Bonus Tracks

RUB A DUB STYLEをコンセプトにしたNAHKIの12枚目となるフルアルバム。日本のインターナショナルレゲエアーティストとしての存在感を再確認できる新旧のファンが楽しめる作品となっている。

(CDのみMedley Style(Interlude)とBonus Track収録。)

日本のレゲエ界において〈ファウンデーション・アーティスト〉の称号を手にすることができる人物がどれだけいるだろうか。
少なくとも、NAHKIは真っ先にその名を挙げられるべきディージェイである。なにせ、I&I COMMUNITYSの一員として活動を始めたのが82年頃。ダンスホール期に入った80年代半ばからはニューヨーク~ジャマイカでも活動を展開し、まだまだ未成熟だった日本のレゲエ・シーンにダンスホール・スタイルの何たるかを伝えてきたのがNAHKIだった。
そんな彼が今回リリースした『INA RUB-A-DUB STYLEE』。古き良きファウンデーション・リディムと、そこにラバダブ調に言葉を乗せていくNAHKIのパフォーマンス。ここにはラバダブがもっともラバダブらしかった80年代のヴァイブスがあり、古びることのないその想像力とオリジナリティーを愛し続けるNAHKIの確信がある。
また、今作はNAHKIとも縁の深いG-Conkarahがプロデュースのみならず全曲のトラック制作および全てのイラストを手掛けていて、彼が新たに立ち上げたレーベルG-Governor Musicからのリリースとなる。NAHKIについて「日本人でもレゲエのビジネスにどっぷりと浸れる事を示してくれた重要なレゲエマン。色々な事を教えてくれる先生でもあります」を賛辞を述べるG-Conkarahと、それに対して「信じられないほど絶大な支援を頂いている、素晴らしい感性を持ったマルチタレント」と答えるNAHKI。ダンスホールへの果てることのない愛情によって結びついた両者の信頼関係が、ここに古くて新しい純正ダンスホール・アルバムを作り上げたのだ。
さて、そろそろセレクターがターンテーブルの上の7インチをひっくり返そうとしているようだ。その横に立つNAHKIも準備万端。
ラバダブ・タイムの始まりだ!

–今回の企画はG-Conkarahさんの発案だったんですか?
NAHKI「そうですね。彼からの録音の依頼はGuiding Star時代から一貫して往年のレゲエの名曲・名トラックが多く、いつも楽しませてもらってきました。ファースト・アルバム以来、自らプロデュースしてきた作品では敢えてあり物のトラックを使わないように心がけてきたのですが、彼との仕事ではそこがまったく違うのが僕には新鮮だったわけです」
–ラバダブというスタイルに対するNAHKIさんの思い入れをお聞かせください。
NAHKI「そもそも、レゲエに乗せて英語でオリジナル曲を歌い、世界中にメッセージを伝えたいと思った80年代初頭の学生時代、今のようにトラックで歌うなどという常識は日本にまだ上陸していなかったんですね。だから、まずはベースを買い、バンドを作るところから始まったわけです。それがジャマイカのダンスの音や映像が伝えられてきて、代わる代わるマイクを取り合い、7インチの裏のヴァージョンに乗せて歌っていくダンスホール・スタイルのレゲエに出会ったんです。
ジャマイカのゲットーで楽器を手にする機会にも恵まれず、とにかく手っ取り早く歌えるチープシックが生んだスタイルがラバダブだったとも言えるかもしれません。そして、バンド演奏が基本だったそれまでのルーツ・レゲエと一線を画すコンピュータライズド・トラックが炸裂した85年、まさにその年に(ジャマイカの)シュガーのユース・プロモーションを訪れることが出来たことが、ダンスホール・スタイルのレゲエを日本で紹介していく際の僕のスタートラインになったと思います」
–今回は、シュガー・マイノットやアル・キャンベルなどのゲストも参加していますね。
NAHKI「シュガーはちょうど僕が歌入れをしていた時に来日していたので、一発録りで粋なセリフをまとめてくれました。シュガーやジェリー・ハリスは僕の音楽人生にとってなくてはならない恩人ですね。アルさんは実は直接会ったことはないんですよ。既に歌入れされていたものに自分のパートを入れています。フロアゴンはその昔、ジャパスプも一緒に旅しましたし、去年(2008年)夏の名古屋でも久々にドレッドになって大人になった彼と会いました。フィオナは喜びのメッセージをMyspace経由で送ってくれたりしましたね。イントロマン(ジョー・リックショット)は、それこそ初めて訪れたシュガーのユース・プロで彼の洗礼を受けています。ホースマウスもいたなあ・・・」
–NAHKIさんにとっての〈優れた音楽〉の定義とは?
NAHKI「感動のあまり涙してしまうなんて音楽体験は数えきれないほどあります。込められる思い、詞・曲の妙、研ぎ澄まされた演奏の心地よさ、アレンジのセンス、ステージにおけるエンターテイナーとしての頭の切れと技、生の音の迫力など・・・・具体的に上げ出したらキリがありませんが、チープシックの中で磨き上げられてきた叩き上げの技とでも言いますでしょうか。
15歳になった息子たちを見ても、お小遣いはみんなレコードに変わっていた自分の時代とは違い、彼らの一番のエンターテイメントはゲームになってるんですね。家電メーカーの商品を売る主力ソフトとして発展したレコード産業は、そんなテクノロジーの進化の趨勢の中、タダ同然の価値に成り下がってしまっています。このままじゃ、時間と労力とお金をかけて新しい音楽を作ることが商売として成り立たない、作り手が潤う仕事として成立しなくなってしまいます。もう未来永劫、人類は20世紀に生まれた人類の発明である〈音楽〉という遺産を食っていくしかないのでしょうか?」
–このアルバムを通じて伝えたいこととは?
NAHKI「ある意味、上の答えに対する疑問としてこのアルバムは存在しているかもしれません。80年代のラヴァーズ・ロックや爆発していた時代のダンスホール・レゲエなど、新陳代謝の激しい時の音楽はいつまでたっても色あせることのないインパクトがあります。僕やG-Conkarahさんが体験してきたそんなインパクトを、この作品の中にも上手く真空パックできていたらいいなあ、それが新しい世代の人々にも伝わったらいいなぁ、といった思いがあります。」
–表現者としての最終目標を教えてください。
NAHKI「レゲエと出会った高校生の頃から、世の中の不条理への不満、身近にあった在日韓国人への差別や、国民はただ利用されるだけの戦争などに対する意識を漠然と持っていたんですね。そのなかで育まれてきた〈エンタテイメント性を伴った≪エデュテイメント≫が平和に暮らしていくには必要なんだ〉という思いがメッセージを伝えていきたいという動機を生み、気が付けば30年以上の月日が経っていました。その間、日本とジャマイカの間を身近なものにする一助となれる仕事もたくさんさせてもらってきたと思います。ただ、エンターテイメントとして歌に込めた思いがきちんと伝わり、また歌い継がれるような楽曲を残せたという境地にはまだ至っていません。
〈そんな楽曲を一曲でも残せたら〉というのが、歌を作る作家としては究極の目標としてあります。
大事なのは見て、聞いて、感じて、それを自分なりに咀嚼し、反応していくこと。そのために必要なのは〈健全な精神と肉体〉プラス〈愛情〉ということでしょうか?今はそんな風に感じています」

2009年7月 大石 始